| エイシップ・ソリューションズ株式会社
設立趣意書 |
1.我国の電子産業の現状
かつて「電子立国」と呼ばれたわが国の電子産業は現在苦境に立たされている。その大きな原因は韓国、台湾、中国本土、インドなどのかつては発展途上にあった国々の産業力が強化されたため、わが国の電子機器メーカの多くが製品の価格競争で対抗することが難しくなったからである。その結果、わが国の電子機器メーカは、生産拠点をこれらの国々に移すことにより、生産コストの削減を図っている。しかし、より深刻な問題は、設計や研究開発の拠点をも海外に移行せざるを得ない状況に追い込まれつつあるという点であろう。
数年前に、「中央研究所の終焉」という言葉が業界での流行語になったように、電子機器メーカの基礎研究能力は大幅に低下し続けている。この現象は電子システムの設計技術およびその設計自動化技術の研究開発に関しては特に顕著である。また、1990年代からは、内製のEDAツールではなく、海外のEDAベンダの設計ツールを導入してLSIや電子システムの設計を行うのが主流となった。しかし、これがわが国の電子機器メーカの競争力を更に低下させる原因にもなっている。
現在のわが国の電子機器メーカが抱えている深刻な問題の一つは、長年にわたって蓄積されたLSI設計のノウハウがEDAツールを通じて海外に流出してしつつあるという点である。かつて世界最先端のLSI製造技術を誇っていた我国のノウハウが半導体製造装置に吸収され、その製造装置を用いて発展途上国が次々とLSIの製造プロセスを習得していったが、これと同じような現象がLSIの設計現場でも起きつつある。
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2.EDAツールの役割
現代の大規模かつ複雑な電子システムの設計には、高度な機能を持つ最新の設計ツールが必要不可欠である。電子システムの設計抽象度は年々高くなってきているので、設計ツールを通じて流出するノウハウには、設計される製品の応用分野に関わる重要な情報が含まれていると考えるべきである。
設計ツールは、単なるコンピュータ・プログラムであるというだけではなく、その背景には設計手法が存在している。設計ツールをより効率的に使いこなすためには、その設計ツールの背景にある設計手法や設計ツールで採用されている最適化アルゴリズムを良く理解する必要がある。ほとんどの電子機器メーカがEDAの研究開発を断念したために、設計者は設計手法やアルゴリズムなどが理解できず、設計ツールを使いこなせないために、設計効率も低下せざるを得ない状況も生じている。
また、ほとんど全ての設計ツールの供給を海外のEDAベンダに依存している現在の状況は、技術立国を標榜するわが国の電子産業の安全保障の観点からも問題が多いと言わざるを得ない。たとえば、供給される設計ツールのバージョンやツール・サポートの優先度の決定権が他国の企業の意思に委ねられている。さらに、新製品を設計するために必要な最新の設計ツールの開発計画も他国の企業の判断に委ねられている点である。しかも、これらの企業に設計ツールの開発を依頼する場合には、設計対象となる応用製品の情報を開示せざるを得ないという、不利な状況に置かれている。
実際、これまでのわが国の電子機器メーカは、このような最新の設計ツールを開発するために、応用分野のノウハウのみならず莫大な開発費までをも提供して海外のベンチャー企業を育成してきた。しかしその結果は、投資先のベンチャー企業が大手のEDAベンダに吸収合併され、開発された最新の設計ツールは海外のコンペティタを利するだけであった。
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3.電子立国日本の復権のシナリオ
このような状況を克服し、電子立国日本の復権を図るためには、目先の現象だけに対応する短期的な方策ではなく長期的な戦略が必要である。その中で最も重要なポイントは次の活動が実施できるような仕組み(社会システム)の構築である。
(1) 最先端の設計手法の研究開発
(2) 最先端の設計手法を具現化する設計ツールの開発
(3) 最先端の電子システムを設計できる人材の育成
これまで、大手半導体メーカの中央研究所は主として上記の(1)と(2)を担当してきたが、中央研究所が本来の機能を果たさない状況にあっては、他の組織にこれらの役割を期待せざるを得ない。この目標を達成するための最も有望な方策の一つは、大学を日本の基礎研究所として機能させることであろう。幸い、大学の多くが独立行政法人として改組され、大学の基礎研究能力を社会の役に立てるべき時代が到来した。
そこで我々は、大学が潜在的に持っている人材育成能力と研究能力を十二分に活用することによって、大学での設計手法の研究成果を実用化し常に安心して使える品質のツールとして供給するための組織を株式会社の形によって構築することにした。会社の社名は、大阪大学大学院情報科学研究科の今井研究室で開発された設計システムの名称を継承して、「エイシップ・ソリューションズ株式会社」(英文名 ASIP Solutions, Inc.、以下ASIPS社とよぶ)と名付けることにした。ASIPS社は次のような事業を展開する。
(1) 最新の設計手法に基づく設計ツールの開発と提供
まず、大学での最新の研究成果をもとにして、実用的な設計ツールを実装し社会に提供する。また、設計ツールのメンテナンスやサポート、設計作業のコンサルテーションやサポートを行う。これらの作業は、専門知識と企業での研究開発や設計の経験を十分に持ったフルタイムのエンジニアを中心にして、大学院生(学生社員)も参加して実施する。
(2) 人材の育成
開発された設計ツールの評価や改良を行うためには、設計ツールを実際の製品開発に適用し、有効性の評価や問題点の解析を行う必要がある。これらの作業は、専門知識を持った大学院生も非常勤の社員(学生社員)として担当する。
これらの作業に対し、学生社員には正当な対価を支払う。これにより、学生社員の生活費および大学院での勉学および研究に必要な費用の一部が捻出できるので、勉学意欲の高い学生の大学院(特に博士後期課程)への進学を促進するという効果が期待できる。これにより高い専門知識を持った研究者や設計者の育成が可能になり、大学の本来の目的とも合致する。
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4.おわりに
ASIPS社の上記のような活動を通じて、学生のビジネス・マインドを育て、将来の起業家を排出できれば、わが国の将来の見通しも明るくなるであろう。幸い、わが国にはまだ大きな国内マーケットも存在し、最先端の製品の開発や製造の一部も国内で行われている。これらのノウハウや人材が残っている間に、機会を見つけて事業展開を行っていきたい。我々の力は微々たるものであるが、今後の電子立国日本の復権に向けて少しでも貢献出来れば幸いである。諸兄のご理解とご支援を切にお願いする次第である。
平成17年4月吉日
エイシップ・ソリューションズ株式会社を代表して
今 井 正 治
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